退職後の健康保険には、国民健康保険への切り替えや任意継続のほかに、配偶者や家族の扶養に入るという選択肢もあります。保険料の自己負担がなくなる点は魅力ですが、収入要件が細かく決まっており、特に失業保険(基本手当)を受け取っている期間は扶養に入れないケースが多い制度です。この記事では、扶養に入るための収入の基準と、失業給付との関係を中心に、公的な情報をもとに整理します。
会社を辞めたら、扶養もひとつの選択肢になる
会社員として働いているあいだは、自分自身が健康保険の被保険者として保険料を納めています。退職後は、国民健康保険に加入する、以前の健康保険を任意継続する、あるいは配偶者や家族が加入している健康保険の扶養に入る、という3つの選択肢から選ぶことになります。扶養に入れれば本人の保険料負担がなくなるため、選べるのであれば有力な選択肢のひとつです。ただし、扶養に入るには一定の収入要件を満たす必要があり、退職してすぐに誰でも入れるわけではありません。特に、退職後に失業保険を受給する予定がある場合は、給付額によって扶養に入れる時期が変わってくるため、あらかじめ仕組みを知っておくと手続きで迷いにくくなります。扶養に入れるかどうかは配偶者の勤務先が加入している健康保険によっても運用が変わるため、判断に迷う場合は早めに配偶者の勤務先へ相談しておくと手続きがスムーズです。
扶養に入れるかどうかの分かれ目
扶養に入るための基本的な収入要件は、年間収入が130万円未満であることです。60歳以上の人や、障害厚生年金を受けられる程度の障害がある人については、180万円未満が基準になります。ここでいう年間収入は、過去1年間の実績ではなく、扶養に該当する時点から先の1年間の見込み収入で判断される点に注意が必要です。給与収入だけで判断する場合の目安は、月額108,333円以下とされています。また、年間収入には給与だけでなく、雇用保険の失業等給付や公的年金、健康保険の傷病手当金・出産手当金といった、税金のかからない収入も含めて計算する決まりになっています。
配偶者と同居している場合
配偶者(被保険者)と同居している場合は、扶養に入ろうとする本人の年間見込み収入が、配偶者の年間収入の半分未満であることが基準になります。ただし、半分以上であっても配偶者の年間収入を上回らない場合で、家計を維持している中心が配偶者であると総合的に判断されれば、扶養として認められることもあります。この判断は世帯の状況をふまえて行われるため、収入の割合だけで一律に決まるわけではない点も覚えておくとよいでしょう。
配偶者と別居している場合
配偶者と別居している場合は、本人の年間見込み収入が、配偶者からの仕送り額より少ないことが基準になります。この場合、送金者・受取人・送金額が確認できる預金通帳の写しや振込明細書などの提出を求められるのが一般的です。仕送りの実態が確認できないと、収入要件を満たしていても扶養として認められないことがあるため、離れて暮らす家族を扶養に入れる際は、日頃から送金の記録を残しておくことが手続きをスムーズにするポイントになります。
その他の収入があると、なぜ入れないのか
失業保険(基本手当)は年間収入の計算に含まれるため、受給額によっては130万円の基準を超えてしまい、扶養に入れなくなります。具体的には、基本手当の日額を365日分に換算した金額で判定され、日額が3,612円以上になると、年収換算で130万円以上の水準とみなされ、扶養に入ることができません。逆に、日額が3,611円以下であれば、失業給付を受給していても扶養の収入要件を満たすことができます。
受給前・受給中・受給後で扱いが変わる
失業保険には、給付が始まるまでの待機期間や給付制限期間があります。この期間中に他に収入がなければ、扶養に入ったままにしておける場合があります。実際に基本手当(日額3,612円以上)の支給が始まると、その時点で扶養から外れる届出が必要になり、その間は自分で国民健康保険や国民年金に加入する必要があります。そして、給付が終了して再び無収入になったり、月額108,333円以下の状態に戻ったりすれば、あらためて扶養に入るための手続きができます。退職直後に扶養に入り、給付開始とともに外れ、給付終了後にまた扶養に戻る、という形になる人も少なくありません。
窓口は本人ではなく相手の会社になる
扶養に入る手続きは、本人が市区町村の窓口に行くのではなく、配偶者(被保険者)の勤務先の事業主を経由して行います。事業主が「健康保険被扶養者(異動)届」を日本年金機構(協会けんぽの場合)や加入している健康保険組合へ提出する流れです。必要な書類は大きく分けて、続柄を確認するための書類と、収入要件を確認するための書類の2種類です。
続柄確認のための書類
戸籍謄本・戸籍抄本、または住民票の写し(提出日前90日以内に発行されたもの)が基本です。ただし、被保険者と扶養に入る本人の両方のマイナンバーを届書に記載し、事業主が続柄を確認した旨を届書に記載している場合は、これらの書類の添付を省略できる場合があります。省略できるかどうかは事業主側の確認体制にもよるため、迷ったときはあらかじめ書類をそろえておくほうが手続きが滞りません。
収入要件確認のための書類
退職してすぐに扶養に入る場合は、退職証明書や雇用保険被保険者離職票の写しを使います。失業給付を受給している間や、受給が終わってから扶養に入る場合は、雇用保険受給資格者証、または雇用保険受給資格通知の写しが必要です。配偶者の税法上の控除対象配偶者になっている場合など、条件によっては事業主の証明があれば収入確認書類が不要になることもあります。どの書類が必要になるかは状況によって組み合わせが変わるため、事前に配偶者の勤務先の担当者へ確認し、不足がないようそろえてから提出すると手戻りを防げます。
期限を過ぎるとどうなるか
扶養の異動届は、退職などの事実が発生してから5日以内に提出することとされています。手続きが遅れて、扶養に入った日(退職日の翌日など)が提出日から60日以上さかのぼる場合は、実際にその期間扶養していた実態を確認できる書類を追加で求められることがあります。「あとでまとめて手続きすればいい」と後回しにすると、必要書類が増えて手間が大きくなることがあるため、退職や失業給付の受給終了が決まった時点で、早めに配偶者の勤務先へ相談しておくと安心です。加入している健康保険が協会けんぽか、企業独自の健康保険組合かによっても、審査基準や必要書類の細かい部分が異なる場合があるため、最終的な確認は配偶者の勤務先や加入している健康保険の窓口で行うことをおすすめします。
まとめ
退職後に配偶者や家族の扶養に入るには、年間収入130万円未満(場合により180万円未満)という基準を満たす必要があり、失業給付を受給していると日額3,612円以上で扶養に入れなくなります。給付開始・終了のタイミングで扶養の出入りが発生することもあるため、あらかじめ流れを把握しておくと手続きがスムーズです。制度の細かい運用は健康保険の種類や状況によって異なる場合があるため、具体的な判断は配偶者の勤務先や加入している健康保険の窓口に確認することをおすすめします。
退職後の健康保険には、この記事で扱った扶養のほかに、国民健康保険への切り替えや任意継続という選択肢もあります。それぞれの条件や保険料の決まり方については「国民健康保険への切り替え|退職後14日以内にやること」「健康保険の任意継続|申請期限20日と保険料の決まり方」で整理していますので、あわせて確認しておくと自分に合った選択肢を比較しやすくなります。失業保険の手続きについては「失業保険(基本手当)の受給までの流れ」をご覧ください。


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